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【第2回】
1月のある夕方、人民日報社にも近い北京市内のユースホステル「ディスカバリーユースホステル」に向かった。日本人が店長というこの宿なら、インタビューしたい相手に出会えるのではないかと思ったからだ。探していたのは、中国を長期旅行している日本人。万里の長城や北京ダックをピンポイントで楽しんで帰っていく短期旅行者でもなく、仕事や学習を目的として現地に根を下ろした長期滞在者でもなく、この地で歩き、呼吸することだけのためにやってきた人に話を聞こうと思った。
「うってつけの人がいるから聞いてみて」と店長の楠本さんに紹介されたのは、札幌出身のアキコさん。「ホテルの近所で買ってきた」という焼き栗の紙袋を手に現れたアキコさんは、突然のインタビューにも気軽に応じてくれた。リラックスした黒のジャージ姿はまさに長期旅行者の風格だが、2か月前まではアジアを訪れたこともなかったという。店長の楠本さんが差し入れてくれたコーヒーを飲みながら、インタビューが始まった。
北京でなくてもよかったんです。あえて言えば「方角がよかった」ということくらいでしょうか(笑)。中国でもインドでもいいから2か月ほど日本を離れる時間が欲しかったというのが本音です。ただ体があまり丈夫でないので、出発前には友達から「中国の食品問題は大丈夫なのか」とよく聞かれました。アジアを訪れるのは中国が初めてだし、中国語もできません。みんなに心配されながらも、「えいっ」と出てきてしまいました。
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| ユースホステルのあるにぎやかな通り |
自分を一度「リセット」しようと思ったためです。もともとは飲食関係の仕事をしていました。「3年で成功する」と心に決めて自分でお店を開き、がむしゃらに働きました。その結果、「成功」には近付いたものの、体を壊してしまいました。その後はお店をたたんで療養の毎日です。なかなか回復しないことへの自責の念が強く、寄せられる期待に応えたい、早く体調、体力を取り戻したいと焦る気持ちが悪循環に陥っていきました。そしていつの間にか、湧き上がる感謝や喜びを感じることができなくなっていました。
家族や友人の気遣いも重荷に思うようになりました。恋人は元気のない私を外に連れ出してくれたり、リゾート旅行に連れて行ってくれたりしましたが、自営業で負担が多い彼に「体調どう? 今日はごはん食べた? 何時間寝た?」と毎日聞かせてしまっている自分が、心底イヤになりました。「リセットして心から元気になりたい」と思ったのはそのためです。いろいろな引き出しを引っ張りだしてテーブルの上にひっくり返したような収拾のつかない日々。これを整理するには、健全な心が必要だと思ったのです。
第一印象は、「中国人は空気が読めない」ということです(笑)。列には横入りするし、耳もとで大声で喋るし、痰を吐く人はいるし。「何でこんなに空気が読めないんだ!」と思っていました。食品の安全性も心配だったので、最初は日本料理屋にばかり通っていました。でも正直、値段は高いくせにあまりおいしくなかった。最初はあまり楽しくなかったです。
日本料理屋に通うのはそのうちやめました。きっかけは、レストランのカウンターで隣に座った日本人が中国の悪口を言っているのを聞いたこと。中国で働いている人らしいのですが、中国製品やら中国人やらの愚痴ばかりこぼしていました。彼らにしてみれば異国で仕事をするというプレッシャーもあるのでしょうが、中国に住んでいるのにそのマイナス面しか見ていないことに違和感がありました。私としても、日本を離れるために出てきた北京でまで、そんな愚痴は聞きたくないと思いました。
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