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年をとると、食べることに執着してくる。あと、何回飯を食えるのか。指折り数えるとまではいかないが、日々の楽しみのひとつが食事である。
「食」といえば、中国は本場である。「四本足で食べないのは机だけ」と言われるほど中国の人々は食い道楽である。おかげで、中国に滞在していた折、奇妙なものまで口に入れる幸運に恵まれた。
貴州省でのこと。車に乗っていると、突然、食堂の店先に丸裸の動物が陳座しているのが見えた。下りてよく見ると、犬の肉だった。道路の両側長さ200メートルほどにわたって犬肉を食べさせる食堂がひしめいている。初めて見る光景だった。同行した貴州省政府の職員がにやりとして言った。「ここの名物です。体が温まって元気が出ますよ」 どこに行っても、「野味」という看板にぶつかる。カエルやヘビ、タヌキ、ハトなどが檻の中で出番を待っている。上海の知人にお呼ばれした時に、カエルとヘビが出た。カエルは鳥肉のようにサクサクとして美味だった。ヘビは空揚げで、細長いせんべいのように見えた。我が家の家系はどうもだまされやすいようだ。小学生の息子は当時、足が速くなりたくて仕方なかった。同席した日本人の友人に「ボク、これを食べると足が速くなるよ」と言われてコロリだった。パクパクとたくさん口にした。その甲斐があったのか、運動会では堂々2位だった。
サソリを初めて体験したのは山東省でだった。この地方の特産で、サソリの養殖で大もうけした「サソリ大王」の記事がよく新聞に出る。これも空揚げだったが、せんべいのような口ざわりで、淡泊な味だった。北京のホテルのレストランでたまたま山東省フェアをやっており、サソリもあった。子供達は嫌がるかとも思ったが、「スナック菓子みたい」と意外に歓迎された。
最近、日本にも直輸入されるほど、日本人の間で人気急上昇なのが上海ガニだ。「左党がシーズンを待ち焦がれる」と言われるほど、あのねっとりとしたカニのミソと熱燗の紹興酒が合うのだ。食べ頃は10月から12月まで。上海近郊にある陽澄湖、洪沢湖、太湖などが産地だ。大きさにもよるが、市場では1匹50元−100元、ホテルでは3、4倍の値段になる。
上海に赴任した頃、こんな話を聞いたことがある。ある日本人の婦人がカニを市場で買った後、ヒモで足を縛られたカニをかわいそうに思い、ヒモを切って袋に入れた。翌日、食べようと思って、袋を見たら、もぬけの殻だった。
いやな人とお付き合いで食事する場合、カニを選ぶとも聞いた。足を割って肉を出すことなどに労力を費やし、食べるのに一生懸命になるので、自然と会話をしなくてもすむからだ。カニは体が冷えるので、食べ過ぎると腹をこわす。
企業の駐在員がこぼしていたのを思い出す。秋になると、顧客や上司らがだんご状態で出張して来る。お目当てはカニ。毎晩、おつきあいした揚げ句、胃の調子がおかしくなった、というのだ。
中国にいると、日本人はどうしても刺し身が恋しくなる。北京では大連あたりからいい魚が入るが、南ではそうはいかない。作家の陳舜臣さんから面白いことを聞いたことがある。刺し身はもともと中国でも食べていたが、食中毒で死んだりしたので熱を通すようになったという。南でもイケスを泳いでいる魚介類を自分で選んで食べさせる海鮮料理屋があるが、確かに蒸したり炒めたりだった。「用心深いのかな」とも思う反面、東京で刺し身に目がない中国人を見ると、頭の中が混乱してしまうのだった。
食欲は人間の三大欲望のひとつだ。食文化ひとつをとってみても、中国人の嗜好は果てしがない。人間の研究という意味でも、尽きることのない、奥深い、最も面白い民族であると、私はつくづく思う。
◇アサヒコム編集室から◇
ご愛読ありがとうございました。日中飛鴻はひとまず終わります。
いつも日中飛鴻をお読みいただき、ありがとうございます。
朝日新聞と人民日報の記者が、コラムを通じて交流するこの企画は、昨年夏のス
タート以来、ご好評をいただいてまいりました。この間、両国の風俗や習慣、国民性などさまざまな問題を取りあげ、ささやかながら日中両国の友好の架け橋としての役割を果たすことができました。
これを機に、これまでの交換コラムは今回でひとまず休止させていただき、新しい交流のページを始める予定です。人民日報とも協力し、現代の中国の姿をお伝えするとともに、これまでの交換コラムも引き続きご覧いただけます。どうぞ、ご期待ください。
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